【私小説】相変わらず見えない未来。
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まただ。また、ここから始まる。
また私は、ベッドで仰向けになっていた。
前にもこんなことがあった気がする。
思い返せば、ほんのつい1週間前の話ではないか。
ある意味、いつも通りの日常だ。
昼下がり。ベッドの上。
布団の温かみに包まれた足先とは裏腹に、身体は部屋の冷気を感じていた。
ぼんやりと浮かぶ天井が、押し迫るように私に憂鬱を与える。
なんでいつも、ここから始まるのだろう。
天井との、絶妙な距離感。
ベッドの上の、浮遊感。
ここはもはや、憂鬱の温床としか言い様がない。
また、ここから始まる。
人間には、未来が見えない。
誰もが抱くタイムマシンへの憧れは、ただの好奇心だろうか。
私はそうは思わない。
そこには、見えない未来への不安がある。
どう足掻いたって見えない。それが未来。
そこが人生の醍醐味とでも言うのだろうか。
そのスリリングさを楽しむものなのだろうか。
見えない未来に向かわねばならないのだろうか。
ベッドの上。そんなことが頭の中で延々と流れていく。
相変わらず視界には、ぼんやりとした天井しか映らない。
「高校には行こうと思ってるの?」
西日が少し差し込む部屋の中。男がそう語りかける。
それは、1年前の話。
私は不登校児の相談センターのような場所に連れて行かれた。
そこにはたくさんのプレイルームが存在しており、
職員と一緒に遊んで緊張を解き、そして今後についての相談をするという、
純粋なる子供を巧妙に操る可笑しい施設だった。
そんな場所に、何度も足を運んでいた。
その日もいつものように、卓球部屋に向かった。
いつものように、どこか薄暗く映る廊下を通って。
いつものように、その閉鎖感に息苦しさを感じながら。
いつものように、足を踏み外した、あのときの自分を恨みながら。
そしていつものように、曖昧に答えた。
「まぁ、行けるなら行った方がいいかなって感じです。」
あれから1年。
高校に通い始め、少し前進したように見えた自分という名の駒は、
死んだようにピタリと動きを止めた。
私は未来を見ていない。
未来を見ている余裕など無い。
今の自分はただ、今の自分を生きているだけ。
1年前に綴った言葉だ。
私は結局、あの頃から1歩も進んでいない。
進んだように見えた駒は、今はもう、あの頃と同じ場所にある。
この世界は、停滞を許してくれないのだろうか。
1秒前は即座に過去と化し、私を無理やり未来へと押し出す。
まるで、私を急かすかのように。
未来が、不気味な笑みを浮かべながら私を迎える。
そこに希望という二文字は特に見当たらない。
どちらかと言えば絶望だが、かと言ってそうでもないのかもしれない。
人間には、未来が見えない。
どう努力しようと、未来は見えない。
なのに人間は、その見えない未来に対して、決断を下さねばならない。
人間が人間である限り、そこからは逃れられない。
凄まじいスピードで、選択肢が襲ってくる。
休もうとすればするほど、それは加速して、私の目の前に立ちはだかる。
やはり、常にペダルを漕ぎ続けねばならないのだろうか。
そうだとしたら、この世界は本当に面倒だなぁと思う。
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目に映るのは、ぼんやりとした天井。
いつも通り。相変わらずの景色。
少し、喉の渇きを感じた。
そうして私は、いつものように水を喉に通し、
また無理やりに、1秒だけ未来へと押し出される。
本当に相変わらずだ。
相変わらず私には、未来が見えない。
☆高校生 “えす” の私小説 Episode1 はこちら。
最後までご覧頂きありがとうございました。
※この物語は小説のくせに ほぼほぼノンフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空ではなく、実在のものと関係があります。