【私小説】わたしと居場所と安心と。
楽しいこととか嬉しいことがあると、すぐその反動で何か良くないことが起こるんじゃないかと思ってしまう癖を直したい。
午前10時。2階のリビング。
テーブル台の上に乗って、網戸越しに向かいの景色を眺めている。
小鳥のさえずりと、遠くを走る車の音。たまに愛犬の吠える声。
薄い曇り空。優しく肌に触れるそよ風が心地よい。
きっと、ずっと続くものなんてない。
いつもと同じ景色が、どことなく情緒的に映った。
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あの頃の私はたぶん、人が怖かったんだと思う。
月曜日になると、向こうの部屋から親戚たちが話す声が聞こえてくる。
その全てが自分の悪口のように聞こえてくる。
学校の先生が家に訪問してきたときは慌てて部屋に隠れた。
お世話になった恩師や仲間に会いに行くのにも数年の時間を要した。
勝手に何もかもを避け、塞ぎ込んでいた。
生まれてはじめて独りになったような気がした。
・・・
最近は何だかすごく楽しい。
顔も知らない色んな人たちと一緒に過ごしているような感覚。
あの頃とは違う、温かい場所に来たようだ。
どこか色褪せていた視界は、鮮やかさを取り戻していた。
やらなければいけないことも、今だけはいいんじゃないか。
そんな甘い考えを浮かばせながら、毎日のように遊び、幸せな気分に浸りながら眠りに就く。
これでいいのかという気もするけど、今はこれでいい気がした。
ふと楽しさを噛み締めるように、枕をぎゅーっとする。
ぎゅーっとすると安心するということに16歳にもなってやっと気付いた。
けど、居場所も安心も、ずっとそこにあるものではないのだろう。
・・・
たまに、この居場所がなくなったとき私は生きていけるのか、なんてことを考える。
きっとそのときはそのときで何とかするんだろうけど。
ずっとこのままでいい。このままで。
でも、これはあくまでも今だけのもの。
いつか必ずどこかへと消えてしまうもの。
それを引き止める権利は私にはないし、引き止めようとも思わない。いや思えない。
そういう距離感が好きなのに、ちょっぴり寂しくなる。
けど相変わらず私の安心は、ここにしかないんだろうなと感じた。
・・・
「居場所がない」と、誰かが言った。
もしかしたら、私も同じ気持ちなのかもしれない。
薄い雲を通り抜けて、うっすらと光が差し込む。
小鳥たちはまだ優しく鳴いている。
いつもすぐそこにあるような、でもないような、そんな曖昧な安心。
いずれにせよいつか必ずどこかへ消えてしまうものだから、今この瞬間を大切に感じていたい。
そう思いながらまた、今だけはいいんじゃないかと、心の中で呟いた。
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最後までご覧頂きありがとうございました。
※この物語は小説のくせに ほぼほぼノンフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空ではなく、実在のものと関係があります。