えすのおと

16歳の現役高校生 “えす” のブログ。

【私小説】もう一人の自分。


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ふと鏡を見ると、生意気な顔がそこに映った。

 

吸う空気がとても熱い。

信じられないほどに熱がこもった洗面所は、移ろう季節の奴隷だ。

 

一方で、全能感に浸っているかのようなその顔は、若気の至りという言葉がよく似合う。

 

けれどそんなものは自分の中のほんの一部でしかなくて、心の奥底にはいつももう一人の自分を飼っている。そんな感覚が、たまに訪れる。

 

彼はとても臆病で、その様はまさに、昔の自分とそっくりだった。

 

 

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今日は三者面談だと気付いたその瞬間に、心地の良い朝は憂鬱へと姿を変える。

 

部屋がいつもより暑苦しく感じた。水を一口だけ喉に通す。

エアコンを強くしようかと思ったけど、面倒に感じて再度ベッドに横たわる。

 

でも私はどこか強気で、気付けばすでに制服に着替えていた。

 

そんなときはいつだって、もう一人の自分は置いてけぼりにされている。

 

「待って。」

 

その小さい声は、誰にも届かない。そして、自分にさえも。

 

 

・・・

 

 

最近、人前だとほとんど声が出なくなった。

クーラーの効いた校舎の一室。脳裏には淡い過去の記憶が蘇る。

 

子供のころから喋るのが苦手で、人前に立つといつも泣いてばかりいた。

 

なぜか声が出ない。なぜか何を喋ればいいのか分からない。

何を聞かれても、10秒ぐらいの沈黙がそこに生まれる。

 

この歳になってもまだ、自分の気持ちを相手に伝えることすらできない。

 

そうして何一つとして異を唱えられないまま、全てが先生の言うとおりに収まっていく。

 

 

NOが言えない。嫌だと言えない。無理だと言えない。

 

演じている訳ではないのだけれど、なぜか良い子にしかなれない自分の弱さ。

 

そう。いつだって心にはもう一人の弱い自分を飼っている。

見えない鎖に繋がれたまま、ずっと殻に閉じこもっている。

 

去年の三者面談では、ちゃんと話せたのにな。

 

そうやって手に入れた、自分に合ったやり方も、今回ですべて振り出しに戻ってしまった。

 

あぁ、何やってんだろうと思っても、やっぱり自分は弱いままで。

あとで後悔することも分かっているのに、やっぱり変わらなくて。

 

人の視線が怖くて、まともに目も合わせられない。

 

そんな不甲斐なさをひた隠しにするように、後部座席で目を閉じ、家路についた。

 

 

・・・

 

 

 「なんで君はそんなに弱いの?」

 

そう問いかけたくなったけど、何だか虐めているみたいな気がしてきてやめた。

 

きっと、いつまで経っても同じなんだろうな。

いつまで経っても自分は弱いままで、いつまで経ってもこの弱い自分と一緒。

 

ずーっとずーっと、もう一人の自分を飼ったまま。

 

理想の自分はいつだってそっと手を差し伸べている。

でも彼の前ではそれもただの無意味と化す。心の奥底で、塞ぎ込んでいる。

 

 

・・・

 

 

人は変われると、誰かが言う。

 

自分もそう思うし、現に変わった。変わったと信じていた。

 

でも実際は何一つとして変わっていなくて、そんな自分が嫌になる。

 

埋められないそのギャップ。目を背けたいその事実。

 

現実逃避のゲームも、今日だけはどこか虚しく映った。

 

 

 

 

 

 

※この物語は小説のくせに ほぼほぼノンフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空ではなく、実在のものと関係があります。